お爺さんとニシンのパイ

どうもどうも、Falmouthに引っ越してきてから2回目のブログ更新です。

日本の皆様いかがお過ごしでしょうか。

こっちは少しずつ寒くなってきました。とは言ってもまだダウンジャケットは不要なほどには暖かく、人々は皆、暗い冬を迎える前に、目一杯太陽の光を浴びようとしています。

勉強の方も順調に進んでいて、今は基本的な構図やガジェットの機能確認、生物学の基礎って感じで、まあなんとかついていけてます。

レクチャー(大きな講義室に詰め込まれて話を聞く授業)と、ワークショップ(カメラを持って外に出て実際に写真を撮る授業)とが半分ずつくらいあって、ちょうどいいですね。

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授業中に撮ったリス。キャンパス内にも色々な動植物が共存していて本当に面白いです。
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フラットメイトたち。みんな年上、まさかの下っ端です。

今週はサーフィンに行きたかったのですが、近日ダイビングの予定があるので怪我したらまずいってことで、週末はカフェで読書したり、写真の編集したり、大学主催のヨガ教室に行ったりして過ごしました。

大学から街の中心街まではバスで20分ほどかかるのですが、今日はそこであった話を少し。

土曜日の昼前、僕は中心街のカフェに行こうと、小雨降る中カメラ片手にバスに乗り込みました。車内は意外と混んでいて、僕の座った席の通路を挟んだ反対側にはお爺さんが一人。

僕の大きなカメラを見て、そのお爺さんが一言「君はPhotographerかい?」

「はい、Falmouth大学で勉強してます」「そうかい、どこから来たの?」

「日本からです、最近までチェルトナムに1年間住んでたんですけどね」

「へえ、遠いところからようこそ」こんな風に会話は始まって、お互いが降りるバスの終点に着くまで、僕とお爺さんは話し続けました。

町の歴史のこと、眺めのいい場所、美味しいレストランなど色々教えてもらい、一緒に笑いながら時間を過ごして、バスは終点へ。

するとお爺さんがおもむろに、バッグから、ビニールで梱包された新品の薄い雑誌を取り出し、僕に差し出しました。

チラッと見たところ、タブロイド、芸能ゴシップ的なことが書いてある、日本で言うところの週刊文春的なもの。

「これを君にあげよう、じゃあ良い一日を」

僕は思いました。

 

 

「うわあ、マジでいらねえ」と。

 

 

でも、「ありがとうございます、感謝します」と言って受け取り、リュックに入れました。

きっとお爺さん、俺が受け取るのを拒否したら悲しむと思ったので。

映画『魔女の宅急便』に、良かれと思ってニシンのパイを焼いたお婆ちゃんの目の前で、娘が「私このパイ、嫌いなのよね」と言い放つシーンがありますよね。

僕はあの瞬間、このシーンを思い出したんです。娘の気持ちも分かるけど、きっとお婆ちゃん、悲しかっただろうなあと。

食べなくてもとりあえず受け取って、あとで捨てるなり他人にあげるなりすればよかったのにって。

僕も映画の中の娘のように、優しい嘘をつけなかったばかりに、たくさん人を傷つけてきたんだろうなと思います。

なので、今回は、とりあえず受け取ってみました。贖罪の気持ちで。大した荷物にもならないし(笑)。

分かり合えないからこそ、今この瞬間に他者を思いやる。

どうしてかは分かりませんが、きっとお爺さんは、何かを僕にあげたかったのだと思います。

でも、その雑誌しか他にあげられるものはなかった。

僕はお爺さんとわかり合うことはできないけど、思いやることはできました。

ほんの少しだけ、大人に近づいた瞬間(笑)。

僕がその雑誌自体を読むこともなければ、そのもの自体に感謝することもないでしょう。

でも、僕はずっと大切に持ってますし、それを見るたびに、あの優しいお爺さんの顔を思い出します。もう名前も覚えてないけど(笑)。

 

未来に素敵な想い出を吹き込んであげる為の大小の思いやりと親切心を。

そこに笑顔と活気をもたらす仲間、安らぎを与える家族や恋人に。

良い一週間を。お仕事学校、行ってらっしゃい。

ではまた来週。おしまい 🙂

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またどこかで会えるかなー。

 

今週も短いので、そのとき撮った町の写真を何枚か。

 

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好きな場所
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古着買ってしまった。
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バス停で話しかけて写真撮らせてもらったボーダーたち。

新生活

お久し振りです。みなさんいかがお過ごしでしょうか。

今年は気合い入れてブログ更新するよって宣言したのに全然嘘になっちゃってすみません(笑)。

まずは近況報告から。めちゃくちゃ申請が遅くなりましたが、なんとか向こう3年イギリスに滞在できるVISAを東京で取得、9/19に日本を発ち、20日の朝にイギリス着。

チェルトナムで一泊して、友達の家に預けていた荷物をパッキングして郵送。

21日に電車を乗り継いで、イギリスの西の果て、Cornwall地方のFalmouthと言う街に引っ越してきました。

→前回コーンウォール来たときのブログ

今読んでみたら意外と面白いこと書いてるじゃん俺(笑)。

Faceook、Instagram、Twitterでは報告しましたが有難いことにFalmouth Universityの

Marine and Natural History Photography(水中および自然写真科)に編入することができまして、これから3年間はここで暮らすことになりました。

思えば山に囲まれた街で生まれ育って、自然の中で何かするのはいつもキャンプとか登山でした。

でも、大好きなミュージシャンはJack Jhonson(ハワイ出身のサーフミュージシャン)だし、着る服もサーフブランドのものが多く、ずっと海に憧れてきました。

海そのものと言うより、海と一緒に生きる人たち、そこから生まれるカルチャー、音楽やファッション、哲学などに惹かれてきました。

色々大変なこともあると思いますが、全て楽しみながら、美しく暮らしていきたいと思います。

久々の投稿なのにこんなに短くてすみません(笑)。

とりあえずまた定期的に更新するよって伝えたくて、形だけですが投稿することにしました。

それではまた。

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海岸線。
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海に行ったらクリフダイブしてる人が
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みなさん遊びにきてください。

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釣り人

スプーンの油を零さないように

バイヨンヌ、どこか懐かしいいい街だ。

9日に寮を引き払ってチェルトナムからロンドンへ。人に会いつつ急ぎ足で旅の準備をして11日の早朝にフライト、日付け変わって12日になった今、フランスはバスク地方の港町、バイヨンヌのホテルの一室からこれを書いている。

先週の金曜日、大学1年目が無事に終わった。正直、日本にいたときに予想していたよりも幾分楽なカリキュラムで、拍子抜け感は否めない。20歳まで日本の外に出たこともなかった自分が、イギリスの大学に進学すると決めたとき、ああこれからは常に時間に追われるような生活になるだろうなと覚悟を決めて海を渡ったはずが、意外とそんなこともなかった。

元来怠惰な人間からすると、時間はあったらあったで難しいもので、1年終わって振り返ってみると、結構な時間を無駄にしたなあと暗澹たる気持ちになる。先程書いたように、こっちでの生活は要求されるもの、例えば課題や試験勉強、で忙しくなるだろうと思っていたので、好きなように時間を使っていいと、自由という荒野に放り出されたとき、どこへ向かって進めばいいのか迷い立ち止まることが多かった。

その上、自分は一刻も早く何者かにならなければいけないという強迫観念は日に日に巨大化の一途を辿るばかりで、時間を無駄にしては自己嫌悪に陥る。稀に上手く時間を使えたことはあっても、きっと他の誰かは自分よりも有意義な時間を過ごしただろうと存在しない競争相手を頭の中で作り出し、こちらもまた自己嫌悪に陥った毎日だった。

自分の話はこれくらいで。チェルトナムでは色んな出会いがあった。フォトグラファーとして働かせてもらったバーでは本当にたくさんの人と話して、写真を撮らせてもらった。素敵な日本人の人ともたくさん会ったね。来る前は知らなかったけど、うちの大学は意外と日本人留学生が多くて、最初は変な片意地張って交流してなかったけど、少しづつ打ち解けてみたら本当にみんな素敵でいい人ばかりだった。(まあつまねえヤツらもたくさんいたけどね!)

チェルトナムだけじゃない。ロンドンで、アイスランドで、ウクライナで、ポーランドで、たくさんの邂逅があった。インターネット上でも、インスタでツイッターで、少しずつ色んな人が自分の動向を気にしてくれるようになって、小っ恥ずかしくもあり、嬉しくも、そして怖くもある新しい出会いが本当にたくさんあった。そしてそれと同じ数だけ別れも。

ここでわざわざ別れを数えてセンチメンタルになることはしないけれど、間違いなく言えることがある。自分は全ての出会いに感謝しているということ。そして去っていった人たちへの愛は変わらずにいつまでもそこにあるということ。いつかまたどこかで会えると疑っちゃいないということ。いつかまた絶対に、必ず会える、そう信じているから、そのときが来たらしっかり素直に謝れるように、強く、素敵な人になっていたいと思う。

はい、振り返りはここまで。これからの話を。

明後日バイヨンヌを出てサンジャンピエトボーへ、そこからスペインの最西端のフィステーラ岬まで続く約900kmのキリスト教の巡礼路を、1ヶ月かけ歩いて旅をする。通称「カミーノ」だ。ちなみに俺はキリスト教徒でもなんでもないけど、道は誰にでも開かれている。高校生のとき生物の授業がクソつまんなくてスマホでNaverまとめ読んでたら出てきたのが最初の出会い。そのあと何冊か本を読んでずっと行きたいと思ってた。不安もたくさんあるけれど、客観的に見てそこまで達成困難なことではないと思う。準備不足は否めない。今年行こうと決めていた旅なのに、あまりしっかり準備をせずにここまで来てしまった。でも、この状況で来るしかなかったのだろうなとも思う。SDカードを300GB分しか用意できなかったのは、1枚1枚大切に写真を取るため。スペイン語を全然勉強せずに来ちまったのは、色んな人に教えてもらうため。小さなリュックで旅するのは、本当に必要なものを見極めるため。そうじゃない、本当はそうじゃない。自分が怠惰だっただけだけど、そう解釈することにした。

旅の間は一切SNSの更新も閲覧もせずに、体験に没頭しようと決めた。何かを経験して伝えるということが好きでやってるけど、最近はそれありきになって、今を生きるということが難しくなってきているように感じる。

美しい景色を見ても、興味深い体験をしても、次の瞬間にはそれをどう伝えるかを考えてしまっている。その時点で体験は鮮度を落とし、感情の流れは淀む。もちろん後に情報発信はしていくつもりだ。が、今回はリアルタイムでは一切発信しない。

もう何度も読んだカミーノに関する小説、ブラジル人作家のパウロ・コエーリョの「アルケミスト」にこんな話がある。

幸福の秘密を知ろうと旅をする男はある日、賢者の屋敷を訪れる。賢者は男に「スプーンの油を垂らさず、私の屋敷を散策してきなさい、戻ってきたら秘密を教えよう」と伝える。戻ってきた男に賢者は尋ねる「君は屋敷の美しさを見たかい?手入れされた庭園を、周りの山々を、美術品を見たかい?」と。男は油に集中して何も見ていなかったことを告白し、賢者は改めて男にもう一度同じことをさせる。男は屋敷の素晴らしさを堪能して戻ってきたが、油のことなどすっかり忘れ、スプーンの油はなくなっていた。そこで男に向かって賢者は、以下のように言う。

「では、たった一つだけ教えてあげよう。幸福の秘密とは、屋敷の素晴らしさを味わい、しかもスプーンの油のことを忘れないことだよ」

ここ最近の自分は、スプーンと油に気を取られすぎていたと思う。世界は広く、深く、美しいのに、手元の端末に気を取られて、それを見逃してしまっては勿体ない。伝えることと体験することのバランス。瞬間に没頭するけど、盲目にはならないこと。目標に向かって邁進するけど、道中での出会いや別れも全て楽しむ。木を見て森も見る。

抽象的ですが、こんなことを意識して旅をしたいと思います。

カミーノは「捨てる」旅らしい。歩いて歩いて歩いて、色んなものが削ぎ落とされる。それでも自分にこびりついて離れないものとは何なのか。自分の中に何が残るのか、見てきたいと思います。

久しぶりのブログの更新。何だか相変わらずまとまりのない文章だけど、最後まで読んでくれてありがとう。よい一日を。おしまい。

See the world. Look behind the wall.

week 10 (アイスランド)

どもども〜日本の皆さん元気ですか。こちらは学期末ということもあって、僕は課題に悩殺されてます。

とは言ってもそこまで厳しいスケジュールではなくて、その証拠に今こうしてブログを書けています。

しかし学期末は学校全体がそれなりに忙しくなるので、今週はあまり集まりみたいなものはなくて、平日はどこへも行かずに課題やったり読書したりストレスにかこつけて不健康なものをたくさん食べたりしてました。今日明日も仕事を除いてはずっと図書館に籠るつもりです。

こうなってくるといよいよ弱い自分の出番で、あーどっか行きてえなあとか旅の妄想をしたり、漠然とした将来の不安に囚われて、片付けるべき目の前の作業から自分を逃がそうとあの手この手で誘惑してきます。

そんなときはとりあえず部屋を図書館に行って、出て何も考えずに作業を始めるに限りますね。(これは尊敬する同級生の室井響くんからのアドバイスです)

前置きが長くなりましたが、今週は特段書くこともないので、この冬の旅の計画を発表します。

タイトルにある通り、アイスランドに行きます(2回目!)

12月7日金曜日に学校が終わり、8日にチェルトナムを出発、ロンドンで準備を整えて、11日に郊外のルートン空港からアイスランドの首都レイキャビクへ、18日の夜の便でロンドンに帰るまでの約1週間目一杯満喫したいと思います。

ホテルやツアーとかは一切決まってません!!!!!アッハッハッハ!!!!!

というのも実は僕アイスランド2回目で、前回計画一切立てずにバックパック一つで行ったら、空港でベラルーシから来た同世代の奴らと意気投合して、そいつらとレンタカー借りて一緒にドライブしてすごく楽しかったんですよ。

なのでまあいつも通りOpen Mindでいればなんとかなんじゃねえのかなって、漠然と思ってます。馬鹿なので。

実はこのブログ午前中に途中まで書いて、他の作業して仕事終わって帰ってきてから今現在、夜中に図書館で書いているのですが、いきなり明日大切な予定が入ってしまいめっちゃ忙しくなってしまいました。

先週言った通りに、こんな適当な感じでマジすみません!今週終わったら時間できると思うので、なんか記事のリクエストとかあったら是非教えてください!

あ、アイスランドの面白い情報とか持ってる方いたらそちらも是非教えていただけたらありがたいです!それではまた来週!

前回のアイスランドでベラルーシの子達が撮ってくれた写真置いておきますね!

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氷河!
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鳥!

 

 

Week 9 (仕事とハイキング)

どもー、今日はアウトドアサークル的なやつでハイキングに行ったんですけど、僕は運動用のボトムスはハーフパンツしか持ってなくて、それ履いて行ったら低体温症になるかと思いました。やっぱり舐めたら痛い目に合いますね。

日本でも最近流行ってきてますが、イギリスでは今週の金曜日がブラックフライデーの開始日で、どこもかしこもセールやってて、一斉にクリスマス商戦が始まった感じで、これが始まるともういよいよ冬、今年も終わるなあって感じます。

来週は初雪降るらしいよとか誰かが言ってたのを聞いて怯えている僕ですが、日本の皆様はいかがお過ごしでしょうか。

今週はスーパー忙しくて、もう最高に疲れてるんでアップデートとハイキングの写真だけ。

今週の一番大きな変化は、仕事ゲットして、バーのカメラマンとして働き始めました。

僕はお酒あんまり飲まないんで、そのバーには2回くらいしか行ったことなかったんですけど、めっちゃ飲みに行ってる友達が紹介してくれて、オーナー直々にパーティーやイベントの撮影を任せてもらえることになりました。

とりあえずは木、土でそれぞれ2時間づつ、20:30-22:30と21:30-23:30。

あ、これは本件とは全く関係ないのですが、僕たち留学生は基本的にビザの関係(Tier 4 VISA)で週10時間までしか働けません。(豆知識)

豊富な経験もなければ、将来ライブカメラマンとかパーティーを撮影するカメラマンになりたい訳でもないんですけど、活かせるチャンスは全て活かして、その仕事から学べるものは全て学んで、獲得できるものは全て獲得しようと思っているので、めっちゃ怖かったんですが引き受けました。そのお陰で今は絶賛苦しみ中です(笑)。

こんなに難しいならやんなきゃよかったあ

まあきっと、というか絶対この経験とこれから四苦八苦して学ぶことが僕の将来に活きると確信しているので、とにかく全力で取り組んで、常に要求される以上のものを提供できるように頑張ります。

あとはまあ、これで学業に影響出たらちょーバカなので、とにかく優先順位を忘れないように、人に優しく自分に厳しくハードワークしていく所存です。

冬休みまであと2週間、大きなプレゼンテーションが2つ、小さなアセスメントが1つあって、ここからが1番の踏ん張り時だなあとワクワクしてます。

来週再来週のブログはおそらくこんな感じで、本当に短めの報告になってしまうと思いますが、冬休みは頑張って色々書こうと思っているので御了承下さい!お楽しみに!

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week 8 (Cornwall)

旅より面白いものなんて、この世にない。

週最後の授業が終わった金曜13時、急いで寮に帰って授業前にパッキングしておいた荷物の最終確認、14:02にCheltenham Spa駅を発つ電車に乗らなきゃいけないから、あまり時間はない。バッグから教科書を取り出して、交換に歯ブラシとNiveaのチューブクリームを入れる。Alright,よし行くか。

今回向かうはCornwall、見ての通りイギリスの西の果てにある街。Cheltenhamからは2度の乗り換えを含めて列車で約6時間強。まあまあな長旅。目的はFalmouth UniversityのMarine Photography CourseのOpen Day。平たくいうと、オープンキャンパスだ。Screen Shot 2018-11-18 at 20.12.31.png

どこへ行くにもバスが比較的割安なこともあって、実はこの街の鉄道駅は今まで使ったことがなく、Google Mapを見ながら歩いて向かった。

今週は結構忙しくてなかなか睡眠も取れなかった上に、日曜日が提出期限のエッセイもまだ終わっていなかったので、電車内ではまず一眠りして、そのあとしっかりエッセイを書き上げようと計画して列車に飛び乗った。

結果、見事に満員。

日本の新幹線のような構造をしているイギリスの長距離列車の連絡通路では、そのまま日本の新幹線が満員のとき見られるように、男女数人がへたり込んだり、壁に寄りかかって立っていた。

うわーマジかよ。

現実が自分の思い描いていたものを裏切ったとき、落胆すると同時に、自分が旅に戻ってきたことを実感する。それはまるでハゲタカが小動物を攫うように、旅が自分を鷲掴みにして、知らない遠くの街へと連れて行くような感覚。旅に出たのは自分だけど、出たらもう、無抵抗のまま空を飛ぶしかない。

不運にもトイレが設置されている連絡通路から列車に乗り込んでしまった俺は、最初の乗り換えまでの約3時間、誰かが用を足そうとトイレのドアを開けるたびに漂ってくる鼻をつく悪臭に顔をしかめながら、課題のエッセイを書いたり、ラジオを聞いたりしていた。

ちょうど聞いていたラジオで写真家のChris Burkardが言っていた。

”Anything that is worth pursuing is going to require us to suffer”

価値のあるものを獲得するには、必ず苦しまなければならない。

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列車に反射した影が、旅のキツさを語る

2度の乗り換えを経て目的地へ辿り着くころには、辺りは真っ暗に、乗客も自分のみになっていた。そりゃそうだ。だってこの先にもう駅はないんだから(笑)。

無人駅で列車を降り、向かったのは事前にCouchsurfingで連絡を取っておいたMaxの家。今夜の寝床だ。

ちなみに彼とは事前に会ったこともない、話したこともない。

知らない人のために説明しておくと、Couchsurfing(カウチサーフィン)とは、旅人のためのアプリ、ネットワークです。土地の名前を検索すると、そこに住んでいて、ベッドが余っていたり、ソファーになら泊まっていいよって人を見つけられる、完全無料のサービスです。僕は結構使っていて、日本では1o組以上の旅人を泊めて、旅人としての利用は今回が3回目です。

知らされた住所を頼りに、おそらくそうだろうと思われる建物の前まで来たもののイマイチ確証が持てずにいると、偶然隣の家に住む住人が帰って来た。

「ここにMaxってやつ住んでる?」「うん!ここMaxの家よ!」「ありがとう!」

インターホンがないのでドアをノックすると、すぐドアは開き、目の前には想像していたより幾分小柄な男(多分俺と同じくらい)が立っていた。

「ようこそタイガ、紅茶を入れるよ。上がって。今ちょうど一緒に住んでる友達が帰ってきたから紹介するよ、彼がHairry。」お互い自己紹介を済ませて、家(なんと築500年!)を紹介してもらった後、始まったのは旅の話。

事前にプロフィールで読んで少し知ってはいたんだけど、これが凄かった。MaxとHairryは大学を卒業した後やりたい仕事も将来の目標もなくて、とにかくまずは世界を見ようと決めて、2人でヨットで旅に出たらしい。

Cornwallから出航してフランスの港に渡った後、ヨーロッパやアフリカの港町を周遊。

Hairryは途中ポルトガルで恋に落ちで船を去って、Maxは一人で旅を続けた。

サーフボードとギターを船に乗せて、未知の波と港を求めて旅をした話は、今まで読んだどんな旅の話よりも刺激的で、彼らのから滲み出る優しさと強さは、きっとこの旅が彼らに授けたものなのだろうと感じた。

ちなみに彼らの旅は沢山のヨット雑誌や旅行誌に記事化されている。

11時前、海近くにいつも行ってるバーがあるから行かないかと誘われ、二つ返事で快諾。

外へ出ると、自転車に乗ったHairryがサドルを指差す。「行くぞー」

え?まじ?ここめっちゃ坂急だよ?ヘルメットは?つか降ってすぐ下ハイウェイじゃん。そもそも荷台のあるママチャリならまだしも、これ結構ガチのチャリじゃん?

たまに頭と心は喧嘩をするから厄介だ。恐えええええええええええええ!けど知らねえ!もうどうにでもなれ!

こうして頭で計算した恐怖を無理やり押し殺して心に従った結果得られた経験は、想像を遥かに上回る美しさだった。

漕がずとも勝手に降っていくというのに笑いながらペダルを漕ぐイかれたHairryと、必死に捕まる俺、隣で自転車を漕ぎつつ爆笑しながら動画を撮るMax。気づいた、俺試されてたな(笑)。

自転車はスピードをあげ夜のハイウェイを走り抜けていく。目下には、月明かりに照らされた無限に広がる海。港には沢山のボートやヨットが停泊している。頭上には満点に広がる星空。

潮の匂いがする、魚の、タバコの匂いがする。深く息を吸い込んでその空気を肺に満たすと、胸が熱くなった。俺は今確かに生きている。

カウンターのみの、小さな、今まで見た中で一番小さなバーで、今までで一番美味い酒を飲んで(ちなみにMaxが全て奢ってくれた)バーに来ていた彼らの友達と自転車を3人乗りしたりしてふざけ倒したのち、家路に着いた。

帰り際Hairryが静かに呟いた「タイガさ、行きはチャリの2人乗りにビビってたけど、3人乗りを経験した後は全然怖くなかったでしょ?一度Comfort Zone(安全地帯)を出て色々やってみると、なんでも大したことなく感じるんだよ」という言葉は、今も心に刻まれている。

早朝に家を出るため明日はもう会えないことを彼らに伝えて別れの挨拶を済ませ、コロンビアの友達に電話をし、ソファーの上で深い眠りについた。

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Hairry(左)とMax(右奥)とMaxの彼女

太陽が昇る前に家を出た。オープンキャンパスは9:30から昼まで、14時の列車で帰らなきゃいけないことを考えると時間はなかったので、早起きして海岸線を歩いた。

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Falmouthの海

それにしても、この街の人はすれ違うとみんな笑顔で挨拶してくれる。まだ大学チェックしてないけど、もうここに住みたいと思い始めていた。

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老人と海

肝心の大学見学を無事終えて(印象はすごく良かった)駅まで向かうと、猛烈な空腹感に襲われた。そういえば昨日の昼から何も食べてない。大学キャンパス間のシャトルバスで少し話した学生に教えてもらった、イギリスで一番美味いというfish & chips屋に入って、写真を撮るのも忘れて貪り食った。めちゃくちゃ美味かったけど、それが空腹のお陰かどうかはもう分からない。

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港町

電車の時間まで約1時間、疲れ果てていたのもあって、適当なカフェにでも入って時間を潰そうかと思ったけど、帰りの電車で休めばいいと自分に言い聞かせて、しばしハイキング。

辿り着いた小高い丘の頂上からは街全体と海が見渡せて、俺をここに導いてくれた様々な出会いに感謝してまた戻ってこれるように祈った。無神論者なので、一体自分が何に祈ったのかは分からないが。

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最後にやっと晴れた

約18時間の滞在だったけど、本当にこの街が好きになった。

帰りは一瞬だった。列車に乗ってすぐ眠りに落ちて、2度の乗り換え以外記憶がない。

大好きなライターのホーボージュンの兄貴も言ってた。旅に出たら違う人間になって帰ってくる。じゃなきゃ旅に出る意味なんてない。俺もずっとそう思ってる。1日ぶりにCheltenhamに帰ってきたとき、この街が前と少し違って見えた。きっとMaxが、Hairryが、頼んだら笑顔で写真を撮らせてくえたおじいさんたちが、バーのマスターのお姉さんが、自分を少し成長させてくれたのだと思う。

やっぱり旅より面白いものなんて、この世にない。

Maxの旅の動画